◆問題を調べるな

何か新しいことを起こすときこそ、リーダーの行動力が問われます。このようなとき、リーダーはどういう心構えでいるべきかという問題を取り上げてみましょう。

最近、橋下徹氏は、「10年後に原発0(ゼロ)! と叫ぶのは、10年後に火星に行くぞ! と叫ぶのと同じレベル」と未来の党をしきりに非難しています。

維新の会は、いろいろな調査手続きを経ていけば、自ずと原発のあり方が見えてくると言っています。これが橋下氏の戦略的意思決定の方法なのでしょうか。

私は橋下氏の戦略家としての資質については、日ごろから疑いの目で見ております。

大きな目標をぶちあげ、落としどころを見て、小利をつく。その繰り返しです。

戦術的な勝利を積みかさねても、必ずしも戦略的勝利は得られません。それは太平洋戦争の敗北で立証されています。


◆戦略的意思決定のあり方

新しいことを起こそうとすれば、まずなにがなんでもやるんだ、という気でなければなりません。いちばんよくないのは、そして、大きな組織ほど起きがちなのが「調査してみてから決めよう」という態度です。

だいたい、そういうような問題は難しいから論議になるわけです。ですから、調査したら、問題点が山のように提示されるに決まっています。それではみんなやる気を失ってしまうでしょう。

こういう場合は、問題点を洗い出すことが議論のテーマになってはいけません。問題点をどうすれば克服できるかを論じるようでなければなりません。

まず、「できるのだ」と腹をくくる。それから、「どうやったら問題を克服できるか」というところに思考を集中させていくことが大事です。

私がいつも感心するのは、初代の南極越冬隊長・西堀栄三郎さんです。

日本人にとって、南極で冬を過ごすことは初めての経験でした。1950年代のことですから、当時の日本はまだ貧乏国。カネも技術もない。経験もない。不安だらけだったでしょう。ですから、無理だという人がほとんどだったのも無理はありません。

そこで、例によって日本が行けるかどうか調査をしようという意見が会議で出ました。でも、西堀さんは反対しました。調査をすれば、必ず問題点がいくつも見つかります。そうなったら、絶対反対者が増える。

そういう調査は意味がないと西堀さんは考えました。そうではなく、まず行くことを決める。そして、そのために、どういう問題をクリアしていくかという発想でないと絶対駄目だと主張したのです。


◆決断したあとの細心さも必要
さて、紆余曲折を経て、日本も南極探検に行くことが決まりましたが、それからの西堀さんは事前準備を周到に行っています。南極に出かける前には、北海道の厳寒の地で隊員たちと暮らし、南極越冬の予行演習をしております。

そこでは、隊員の訓練だけでなく、犬ぞりの訓練、越冬のための食糧の研究、機器の耐寒テストなど、広範囲なテストが行われました。

つまり、南極で行う仕事を細分化し、それを個別に取り出してテストしたわけです。

その結果、発電機のオイルが凍って使い物にならなくなることがわかりました。また、寝泊まりする建物の構造に不備のあることもわかりました。

西堀隊長は、このような調査を「論理的リスク削減対策」と呼んでいました。論理的に考えられるリスクをすべて拾い上げ、それを徹底的にテストしてつぶしていこうというのです。言い換えれば、仕事を細分化し、それぞれについて疑似体験することで、リスクを発見しようということです。