リーダーの暗示学

私が扱う暗示は、リーダーが「人にかける暗示」であって、自己暗示ではありません。

人間には観念というものがあります。潜在意識的に抱いているイメージ、空想のことです。

爪に火をともすような暮らしをしていた人が亡くなって、タンスを調べたら、何千万円もキャッシュが出てきた、というようなニュースを聞いたことがあります。

このようにお金にこだわる人はどんな空想に支配されていたのでしょうか。おそらく、常に「お金を失う」という空想にとらわれていたはずである。何かの体験――例えば、若いころお金に苦労したこと――によって、そういう恐怖感が心に住みついてしまったのだろう。

羹(あつもの)にこりて膾(なます)を吹く、ということわざもある。一度ひどい目にあうと、「また失敗するぞ」という空想にとりつかれる。

株で大損した人が、二度と株に手を出さなくなるのはそのためだ(もっとも、懲りない人も大勢いるが)。

この観念が、人間行動を引き起すわけです。ですから、この悪しき行動をうながす観念を壊せば、人間行動は変わりうるのです。

その壊す方法が、私が言う暗示なのです。

暗示にはいろいろなパターンが存在します。そのなかでも比較的簡単にマスターでき、応用範囲の広い基本型を紹介いたします。

これは、相手が非常に厳しい状況、不安な状況にある場合に用いる暗示です。
 
部下が失敗してめげていたとします。このとき、「だめじゃないか」と非難したり、「もっとがんばれ」と激励するのはよくありません。

観念を壊すには、それを全面的に否定するのは間違いです。こうすると、相手は反発するか、かえって落ち込むかのどちらかになってしまいます。

では、どうするか。

観念を壊すには、相手の観念の一角だけを否定するとよいのです。

具体的には、一つだけ相手が成功しているようなことを指摘する。

「君は失敗てめげているが、こういう点ではよくやっているではないか」といった具合です。

ひとつだけ、相手の観念と違うことを言うのです。すると、相手は「そうかな?」と思いだす。

そうすると、そこから観念がボロボロ崩壊していく。これが暗示の基本型1が狙っている戦略なのです。

詳細は拙著『リーダーの暗示学』にありますので、ご参照ください。

ついでにいうと、この本では触れておりませんが、人によって浮かびやすいイメージがあります。ですから、それを読めば、暗示の成功率は高まりますね。

それは、感受性というもの。人間の価値観とか行動基準と、私は呼んでいます。

相手がどういう言葉に敏感かということでもあります。これが感受性。

で、感受性に沿って話すとはどういうことかを研究すること。

感受性分析については、すでによい理論があります。

感受性によって求めるタイプがずいぶん違います。

そういった人間を見ることをリーダー研修の中心テーマに据えているのがL研リーダースクールの人間行動学科です。

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人間の行動基準は大ざっぱにいって10種類あります。それを頭に入れて、なおかつそのタイプを識別できれば、対人折衝ではとても役にたちます。

その基本的な考え方を示したものが、11月に発売予定の
『リーダーの人間行動学――人間を見る力を鍛える」(鳥影社)

この立読みを準備しました。一部ごらんいただけます。こちらから