部下がついてくるリーダーの技術

ビクターのビデオ事業部長の高野という人は、えらい人でしたね。彼の戦略を調べると、実に理にかなっています。私の「暗示型戦略」のお手本というか、ひな型のようです。
 
ビデオ製品の黎明期においては、製品は業務用が中心で、家庭用の製品はありませんでした。そして、技術も市場シェアもソニーがダントツで、あとのメーカーはほとんど体をなしていなかった。
 
そこで、高野の基本戦略は、まず「ソニーと技術提携して、技術導入する」

次に「そこで基本の技術力をつけ、業務用市場で成功する」

「その技術力をバックに、今度は、家庭向けの、安くて、軽い製品を開発する。そして、家庭市場に参入して、ナンバーワンになる」

という遠大なものでした。
 
これは、私の言う「(プロセス)暗示型戦略」です。どういうプロセスを通って、ゴールに着くのかを部下に示していくのです。

プロセスを示す利点は、部下がそのプロセスに意識を集めますので、チームとしての集中力が生まれやすいのです。

しかし、高野や部下たちは、たいへん苦労します。なにしろソニーとビクターでは、技術力において大人と子供の違いがありましたから。その苦労をどうやって切り抜けていったか、おもしろいエピソードがいっぱいありますが、それは長くなるので割愛。
 
高野の戦略の分岐点は、松下幸之助の支持を取り付けたことでしょうね。

高野は部下に家庭用ビデオの試作機を作らせていましたが、「世の中でいちばんいいものをつくれ」と言明していました。
 
それができたと確信できたとき、幸之助を招き、試作機を見てもらったのです。幸之助は絶賛しました。
 
これは勇気がわきますよね。幸之助は販売の神様と呼ばれた人です。独特の勘で、売れる商品かどうか、ぴたりと当てる人なのです。その人にほめられたら、これは勇気凛々でしょう。
 
これが、結局ビクターの技術者たちにとって「希望の星」となったわけです。

しかし、高野は漠然と希望の星を待っていたのではないのです。希望の星がどこにあるかをよく知っていて、それを得るために緻密な準備をし、またいつ希望の星を取りにいくか、最善の時期を探っていたのです。

つまり、戦略プロセスのどの段階に希望の星を埋め込むか、いつも考えていたのです。

やがて、プロセスどおりに物事が進み始めると、今度はプロセス自体が希望の星になっていきました。

「このプロセスどおりやっていけば、絶対うまくいく」と、みんなが戦略プロセスを信じるようになったからです。
 
高野は、ビデオ事業の功績を認められ、最後はビクターの副社長に就任しています。

リーダーの人たちは、希望の星を部下に与えるように努めていただきたい。特に、厳しい状況にあるときこそ、それが必要です。
 
高野さんという人は、信望のあつい人のようでした。事業部の技術者がリストラされそうになると、必死でそれを防ごうと努力しています。

また、販売不振で、サプライヤーを切らねばならないようなとき、なんとか注文をまわして、サプライヤーのために働いています。もちろん、一度切ったら、次に協力してくれないという計算はあったのでしょうが、それ以上に人情を感じます。
 

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戦略を学ぶ人は、人間がどう動くかも勉強して頂きたいと思います。人間の行動基準(感受性)は大ざっぱにいって10種類あります。それを頭に入れ、なおかつそのタイプを識別して、対人折衝にあたれば、指導は非常に効果的になります。

これらについての概説は、12月初頭に発売される『リーダーの人間行動学――人間を見る力を鍛える』(鳥影社)にまとめておきましたので、ご一読ください。
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