相手の感受性に合った言葉かけの効果
以下は拙著『リーダーの暗示学』からとりました。
昭和20年9月、吉田茂が外務大臣に就任してすぐのことでした。
このとき、日本を統治していた占領軍司令官のマッカーサーと吉田は初めて会うわけです。昭和天皇とマッカーサー司令長官の会見をセットアップする打ち合わせでした。
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会談がはじまると、マッカーサーは執務室の中を行ったり来たりしながら吉田に話す。これはマッカーサーの癖であった。吉田はマッカーサーの言葉を聞き漏らすまいと、マッカーサーの動きに合わせて、体の向きをしょっちゅう変えなければならなかった。
そういうことがしばらく続いているうち、吉田の脳裏に、ふと、檻のなかでうろうろして歩きまわるライオンの姿が浮かんだ。吉田は思わず吹き出してしまった。
マッカーサーは、どうして吉田が笑ったのか、理由をたずねた。吉田は困ったと思ったが、平然と答えた。
「ライオンの檻の中で講義を聴いているみたいだ」
すると、マッカーサーは、吉田の顔を見て、自分もゲラゲラ笑い出した。
マッカーサーの態度について、工藤美代子氏は次のように述べている。
「およそユーモアを解するとも思えないマッカーサーが、吉田の言葉に大笑いをしたのは不思議な感もする。老練な外交官である吉田は、いつのまにか相手の心を取り込むすべを知っていたのかもしれない。また、吉田の英語力が、当時の日本人としてはズバ抜けていたのだとも解釈できる」(工藤美代子『マッカーサー伝説』恒文社21)
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さて、その後マッカーサーと吉田はたいへんよい人間関係を築くことができたようです。吉田はマッカーサーに信頼されたの数少ない日本人の一人でした。私は、その原因が、このときの初対面の会話にあったような気がしています。
吉田茂の言葉は暗示効果をもたらしたと私は考えています。マッカーサーに対して、あるイメージを提供したのです。
この場合、マッカーサーの感受性と吉田茂の言葉がピッタリ合わないと、そういう効果はでません。
では、マッカーサーの感受性はどんなものであったか。
マッカーサーという人はとにかく自己顕示欲が強い人のようでした。自分のことを「マッカーサーはこう言った」とか「マッカーサーはそう思わない」などと日ごろから言うのだそうです。
マッカーサーは自分の演説に酔って、しゃべり出すととならない癖がありました。普段の会話でもそうで、いつの間にか独演会になってしまうのだそうです。
そのわりに社交は好きではないようで、社交はもっぱら婦人に任せていたようです。
あとは、青年時代に胸を病んでいます。
ということで、拙著『リーダーの行動学 人間を見る力を鍛える』を読んでいただいた方なら、マッカーサーがどんな体癖かおわかりでしょう。
マッカーサーは自己陶酔の権化のような人です。そのマッカーサーに向けられた吉田茂の言葉が、マッカーサーの脳裏にどんな化学反応をもたらしたのか……。
このあとの解説は拙著『リーダーの暗示学』をお読みいただくとして、とにかく相手の感受性にぴったりあった言葉が出ると、効果はすごいものがあります。
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