リーダー研修の目的

日経ビジネスオンラインの2011年1月19日号に鈴木義幸氏が興味深い記事を寄稿されています。やや長くなりますが、引用します。

タイトル:「人の成長は「問い」から始まる リーダー研修には]限界と弊害がある」

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よく「リーダーシップ研修」が行われています。リーダーとなるべき人たちを1つの場所に集め、養成を担う講師がリーダーシップの発揮のしかたなどを教え込むものです。

リーダーシップとは何かについて講師が語り、最終的に、「いまの時代、リーダーはこうでなければならない!」と、きれいにコンピテンシー(高い業績を上げる人物の行動特性)としてまとめあげ、受講者にバシッと伝える。つまり、正しい答えを提供するわけです。

実は、これには受講者のリーダーとしての成長を妨げる可能性があります。

「正しい答え」をあげてしまったら、相手はそれ以上考えなくなるからです。すっきりしてしまい、完了感を味わってしまう。

答えを提供する人が、尊敬され、すごい人だと思われていれば、答えを受け取った人は、「あのお方がああ言うのなら」と、その答えを信じ、それ以上の考察をしなくなってしまいます。名のあるほど逆効果かもしれない。

「正しい答え」で話を終わらせようとするのは、研修講師だけに限りません。上司も、親も、先生も、“華麗なアンサーマン”であろうとしますから、最後は切れのいい答えでまとめあげようとする。そうすると、相手は深く考えなくなる。

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たしかに、うなずけるところの多い意見です。

私自身は、提供するリーダー研修の最終目的をこのように定めています。

「受講生が、自分で考えて計画を練り実行し、その成果や結果について自分で分析し、改善案を自分でみつけること――そして、このプロセスが身に付いてしまうレベルにまでもっていくこと」


状況は一人一人違うのです。

どの受講生も、一人として同じ環境にはないわけです。

コミュニケーションだけをとって考えても、相手が異なるし、また受講生自身のキャラクターも違う。

世界にひとつとして同じ人間関係はありません。

だから、ひとたび研修ルームから去れば、お手本などない世界に入らないといけない。

となれば、研修で学び身に付けるべきは、「自分で考える能力と、それを運用する実践力やセオリーの応用力」ということになります。

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■リーダーシップ向上に関する参考書籍

佐藤直曉著『リーダー感覚――人を指導する喜び』(鳥影社)

本書はL研リーダースクールの通信講座初等科1のメインテキストです。初等科1では、人の心を動かす訓練としてほめる訓練を実践していただきます。この講座は、受講生に技術的アドバイスを行うとともに、受講生の成長を見守っていく実践型プログラムです。

立読みはこちらからどうぞ

戦略を考えるための基礎能力養成

経営戦略を学ぼうとする人は、いろいろな手法を目にすると思います。

ちょっと調べたサイトでは、こんな手法を列挙しておりました。

◆事業の方向性を決めるフレームワーク
アンゾフの経営戦略 (成長戦略のフレームワーク
PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント
GEのビジネススクリーン
バリューポートフォリオ

◆戦略のパターン
ポーターの事業戦略類型
価値基準による戦略類型
業界地位と戦略
ブルーオーシャン戦略
チャレンジャーの逆転戦略

◆業界構造分析のフレームワーク
5つの力(ファイブフォース)
アドバンテージ・マトリックス
戦略ポジショニングの分析

◆内部資源分析のフレームワーク
バリューチェーン
デコンストラクション
サービス・プロフィット・チェーン
リソース・ベースト・ビュー
7つのS
VSPROモデル

◆事業戦略立案のツール
PEST分析
PLC(プロダクト・ライフ・サイクル)
テクノロジー・ライフサイクル
技術戦略(MOT
事業の経済性分析
経験効果
3C分析
SWOT分析
PDCAサイクル

◆統合的フレームワーク
ビジネスロードテスト(7ドメインズ)
デルタモデル
環境分析のプロセス
製品市場戦略(PMS
競合分析フレームワークKSFの

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このような手法を勉強するのが悪いとは言えませんが、これでは学生のお勉強にしかなりえない、といったら言い過ぎでしょうか。

しょせん手法とはあとからくるもの、問題が先にあってそれをどう解くか考えるときに考えればいいこと。

おもしろい手法があるから、これを現実問題に適用しようというのは順番が逆で、だいたいうまくいきません。

手法を学ぶ前に、肝心のビジネスのセンスとか、戦略的なセンスをどうやったらつくれるかをまず考えるべきでしょう。

この点について、いま私は自分なりの考え方をまとめていて、いずれ発表しようかと思っています。

アプローチとしては、
1)問題とは(戦略課題とはどのようなものか)
2)問題を解く者の性質

2)については、3つの構成要素を考えています。

この3要素(トップの志向、組織の特徴、環境)をていねいに分析することがまず大事だと思います。

そのためのフレームワークを提示したいと思っています。アナリストの業界分析とは少し違う確度になりますね。

スキルだけでは限界があるリーダーシップ

コミュニケーションスキルなどを教えている身ですが、スキルだけではどうにもならないと思うことがよくあります。

コミュニケーションというのは、結局は人間と人間の関係。

となると、ベーシックな人間的な力が大きく影響するのは当然でしょう。

たとえば、言葉づかいが乱暴だとしても、本当は心根が優しい人なのだとわかっていたら、部下はついてくるでしょう。

その逆に、どんなにスキルがすごくて、才能があっても、自己中心のリーダーには、最後は人は離れていくのではないでしょうか。

前者の代表例はホンダの本田さん。

本田さんは激情家なので、ガンガン怒ってしまうのです。しかし、あとで冷静になると、相手も悪気があって失敗したわけではない、言い過ぎたなと思ってしまう。
 
それで、悪かったなあという顔になってしまうのだそうです。すると怒られたほうもホッとするところがあったようです。
 
また、あるとき、本田さん自身が車の試運転をサーキットで行っていると、タイヤがはずれるという事故が起きました。下手をすれば命にかかわる事故です。担当者はあおい顔でやってきました。
 
ところが、本田さんは全然怒らず、別の話をしたそうです。問題が深刻で、相手も悪いとわかっているとき、あえて怒らなかったのです。

人のことを怒っても愛されるのはたいしたものですね。

たぶん、その人の根底に人間としての優しさがあるからでしょう。

冷たい人に対しては人は去って行きます。

自分のことばかり考えて、人のことに関心をもたないリーダーについていく部下はそう多くないでしょう。

リーダーのための新人育成法

人間にとって最も恐ろしいことは何か?

たぶん、先が見えないこと、先が読めない、ことではないでしょうか。

パニックとはそういうときに起きると考えてよいでしょう。

1998年のサッカーW杯、フランス大会。日本チームはひよっこでした。

このとき、強豪国と対戦して全敗。日本選手は試合中パニックに陥ったそうです。

それはこれまでとまったく質の違うチームとぶちあたったこと。

異次元のチームと試合をしたような感覚だったのでしょう。

なにしろ、こっちのやることはことごとく通じない。

相手のやることがまったく読めない。

こういうとき、人間はパニックになるというよい例でした。

さて、似たような状況にあるのが新人くんたちです。

なにしろ、どんなことが起きるかまったく知らないのですから、無理もないことです。

こういう人たちにはどういう指導が必要か。

失敗は軽く見て、よくできたことをほめる。これしかありません。

ある病院での新人教育に関するアンケート結果の一部を紹介しましょう。

新人のモチベーションが上がる時

  • 先輩からの声かけがあったとき「私は大切にされている」と実感し嬉しかった
  • 自宅での学習や事前学習をしていることに気づいて声をかけてくれたとき
  • 病棟外でも声をかけてもらったとき
  • 先輩、上司から「よく見ることができているね」と言われたとき
  • 「すごいね、そこまで考えているんだね」と言われたとき

○新人のモチベーションが下がる時

  • 忙しそうで声をかけられず、不安なままでケアをしているとき、
  • 今、しようとしたことを「やっていない、できていない」と言われたとき
  • できていないことしか言ってもらえない、それを人前で言われるとき

(引用:『主任&中堅+こころサポート』2012年1・2月号(日総研),16-17ページ)

こういうアンケート結果が出るのも道理というものです。

人間マネジメントの基本をリーダーはしっかり学びましょう。

リーダー研修のあり方

私の考えるリーダー研修を動画でまとめています。

人は自分の問題にしか興味がないということ。

だから、研修もそういう問題をテーマに扱わないと、勉強する意欲が維持できません。

手順を尽くすことがないと物事は進まない

最近つくづく思うのですが、どんな問題解決にも筋道というものがあり、それに反することはそごをきたすと思います。

野田執行部のやり方を見ていると特にそう思います。

社会保障の姿をまずきちんと示していれば、消費税の問題はもっとずっとスムーズに進んだことでしょう。

そこに信念がないものだから、安易に妥協の路に走る。

結局、消費税増税という手段しか頭にないからでしょう。

上げてしまえばなんとかなるという安易な態度が鼻についてなりません。

原発の再稼働でも、安全規制庁を新しくつくり、きちんと安全検査体制を整備し、それに基づいて原発を厳密に審査し、判断をすれば、もっと説得力があったでしょう。

それを、ただ再稼働を急がせたいという理由だけで、きちんとした道筋を追わずに行うものだから、この有様です。

TPPも似たような運命をたどるでしょう。農業問題などの解決策なしで、ただTPPをやるといっても、ついてこれない人が多いはずです。

この道筋は、単に党内の手順だけ用意すればよいというものではない。

内輪だけですまそうとするから、安易な手順のみを追いかけることになる。

国民(ユーザー)を参加させても、十分に耐えうる道筋でないといけません。

正道に戻ることを切に望みます。

戦略のプロセス構築にあたっては考えるべきポイントがいくつかあります。

手順が前後してしまうと、野田執行部のようににっちもさっちもいかなくなりかねません。

こちらの本が参考書になります。

暗示型戦略

リーダーシップのための先見力訓練

先見力と一応呼んでいますが、これは物事を統合的にとらえる力もつけます。その方がメリットがあるかもしれません。難しいテーマですが、研究の価値はおおいにあります。便宜的にここでは先見力と呼びます。

先見力をつけるために、私は以下の4つのポイントをあげております。

第一は、「兆し」というものを理解し活用することです。兆しを理解するには社会における深層潮流の動きと表層潮流の動き、また両者の不調和を理解すること、あるいは二つの潮流を認識し、両者の距離を正確に把握することが重要です。

たとえば、社会システムの分散化傾向は近年ますます加速しています。アマゾンに見られるような、ロングテールの市場を容易に捕捉することができるようになったのも、ネットの時代の特徴といえます。

単にネットだけでなく、分散化はいたるところで見受けられます。そして、それとは逆に流れている表層潮流――集中化――との対立はますます激しさを増しています。

橋本大阪市長の主張する大阪都構想、あるいは道州制もそうですし、いま非常に問題となっている原発再稼働問題もエネルギーの地域独占体制という表層潮流に対する分散化を求める深層潮流との不調和といえるでしょう。

第二は、対立の分析です。社会的システムでは、深層潮流と表層潮流の対立が激しくなると対立が激化します。その対立がどのような形で帰結するのかを推理しなければいけません。対立にはいくつかのパターンがありますから、それを頭に入れておくと便利です。

第三は、社会的システムの形態変化を研究することです。システムのアウトプットに変化が生じているときには、サブシステムに変化が生じています。その動きを確実に捉えることが必要です。――このあたりを戦略に利用するのが拙著伝動戦略です。

第四は、社会的システムにかかわる人間行動の理解です。これは二つあって、一つは個人のミクロ的とも言える行動パターン。もう一つは組織としての行動です。これについては組織行動学として考えています。これについては組織行動の力学を参照してください。

以上の解説と、先見力を日ごろ訓練する方法を拙著『先見力訓練法』にまとめてあります。なお、この本はすでに在庫切れで、著者の保有在庫もあと20部程度しかありませんので、お求めを希望される方は、こちらを参照してください。

先見力訓練法の解説はこちら

動画による簡単解説